もどる

すべり止め舗装(バインダーとは?)

  バインダー(binder)とは、骨材を路面に接着させるために用いる接合剤のことです。すべり止め舗装に使用されるバインダーには以下のような耐久性能が求められます。

 (1)施工したアスファルト舗装の温度変化による伸縮に追従できる柔軟性
 (2)車両通行時の荷重圧力や、走行振動による密着阻害に耐えうる強度
 (3)水分、熱、油分等による化学反応、紫外線による劣化などへの耐性
 (4)硬化時の伸縮力によりアスファルト舗装体に割れをおこさない
 (5)バインダー塗布時、道路に傾斜があっても、流れず、均一な厚みを維持できる粘度

 そのためニート工法の樹脂系すべり止め舗装工ではバインダーとして主にエポキシ樹脂(epoxy resin)を用いています。このエポキシ樹脂は接合剤として非常に強度があり、またある程度の化学反応にも耐性があります。また配合剤によっては柔軟性も生まれ、硬化時の体積収縮に対応も取れるため、多くの分野で利用されています。しかし、寒冷地においてはさらに次のような耐久性能が求められます。

 (6)低温時でも硬化する
 (7)四季を通じた大きな温度変化、特に低温時にも柔軟性を失わない
 (8)除雪車両のような高圧力による走行に対しても骨材を保持できる強度

 一般的に使用されるエポキシ樹脂は低温状態になると硬化せず、柔軟性が低くなる性質があり、寒冷地、特に積雪のある地方では除雪車等による過酷な条件に耐え切れず、剥がれやすくなるという問題を含んでいました。
 この問題を解決する方策として、2つ考えられます。1つはエポキシ樹脂の代わりになる樹脂バインダーを使用すること。もう一つはエポキシ樹脂にそうした特徴を持たせるように工夫することです。
 前者に対する答えとしては、「MMA樹脂」があります。「MMA樹脂」の特徴として

(イ)可撓性が大きく、共用後のクラック発生の心配がない。また、骨材との結合力も大きい。
(ロ)接着強度が大きく、重交通路線でも剥離等の破損が無い。
(ハ)弾力性に富み、耐衝撃性に優れている。
(ニ)低温時(5℃以下)の施工性が良く、硬化性が優れている。
(ホ)エポキシ樹脂に比べ、冬期での施工時間の短縮が可能である。
(ヘ)耐候性、耐油性、耐薬品性に優れている。

 などが上げられます。とくに低温時でも硬化するという特徴は、上記(6)の性能に適合します。ただ、エポキシ樹脂と比較した場合、その接着力では圧倒的にエポキシ樹脂が大きいため、適用シェアとしてはエポキシ樹脂が非常に多いと言えます。
 後者のエポキシ樹脂の特性を変化させることは、ある程度は可能であっても、MMA樹脂のように5℃以下といった低温下で硬化させるようなことは出来ません。施工場所(車道、歩道など)、施工時期と気温、などを検討した上で、使用する樹脂を決定することが望ましいと言えます。

エポキシ樹脂について
 エポキシ樹脂とは1分子中に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を含む樹脂状物質の総称です。骨格となる分子構造の相違や 分子量の大小によってビスフェノールA型,ビスフェノールF型,臭素化エポキシ樹脂,グリシジルアミン型等のタイプがあります。この中で約90%を占めるのがビスフェノールA型で、エピクロルヒドリン(epichlorohydrin)とビスフェノールA(bisphenol A)を反応させて作ります。下図ではエピクロルヒドリンの三角の部分がエポキシ基になります。いうなれば、ビスフェノールAの両側をエポキシ化することで、ビスフェノールA型エポキシができるわけです。





 こうして出来上がったビスフェノールA型エポキシ樹脂は上の図のように一様な分子量ではなく、樹脂同士が結合して、いくらでも大きくすることができます。エポキシ樹脂は分子量が大きくなると、粘度が上昇し、ついには固形化してしまいます。しかし、すべり止め舗装に使用されるエポキシ樹脂は、硬化前の常温の環境下では液状でなければならないため、分子量の小さいものが用いられます。

  エポキシ樹脂を硬化させるためには硬化剤をエポキシ樹脂に配合する必要があります。樹脂系すべり止めでは、アミン系の硬化剤を混合することによってエポキシ樹脂を硬化させます。このようにエポキシ樹脂と硬化剤を施工現場で配合して硬化させるタイプを2液型といいます。

 上図の「Polyamin」の部分にはなんらかのポリアミン系の分子が入ります。最初は「fig.1」のように直鎖状に連鎖生長していきます。これがある程度進むと、次に水酸基(OH)や2級アミノ基(NH)から枝分かれするようにして更に樹脂が生長していきます。「fig.2」


そして、ついには枝分かれしたほかの幹につながり始めて、3次元網状の硬化構造が出来上がります。「fig.3」

 もっとも、これはエポキシ硬化反応の中でも一般的なポリアミン硬化というもので、実際には反応促進剤や柔軟性を維持するための樹脂、などさまざまな添加物を併用して、複雑な硬化反応が起こっています。

  ビスフェノールA型エポキシ樹脂はそのままだと、非常に剛直であり、内部応力も強いため、硬化後にひび割れを起こしやすくなります。また、硬化するときに収縮するため、塗布したアスファルトに亀裂を発生させる要因になります。こうしたことを防ぐために伸展剤や可塑化エポキシ樹脂などを配合して、ひび割れせず、同時にやわらかすぎない物性を持たせる必要があります。
 炭酸カルシウムや珪酸マグネシウムなどの体質顔料は、バインダーに流れにくい性質を持たせることができます。さらに、内部応力を弱めるので、ひび割れができにくくなります。

 すべり止め舗装ではこの2液型エポキシ樹脂の混合及び塗布を骨材散布直前に行う必要があります。しかし、これを手作業で行うと、(1)計量ミス、(2)混合不良、(3)気泡の混入、などのミスを起こす可能性が高くなります。実際に施工現場で混合する場合は、バインダー塗布機を用いて行うことが望ましいと言えます。