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輝度比とは?

●照度と輝度の違い

 照度とは物体にどれだけの光が当たっているかということで、写真の撮影等にはよく用いられますが、同じ光の量が当たっていても、物質の特性や色によって、私たち人に見える明るさは変わります。つまり眼にどれだけの光が入ってくるかということで評価しなければなりません。その評価に適しているのが輝度です。輝度(反射輝度)とは、ある点を定めて、対象の物体からその点方向に向かう単位面積当たりの光の量(cd/m2)を表します。これは私たちの感じている物の明るさにかなり近いと考えられています。ただし完全に一致しているわけではありません。例えば、ある角度から見て同じ輝度が測定されている黒い壁と白い壁があったとします。たとえ同じ輝度であっても、私たちは白い壁の方を明るく感じます。輝度を用いるにはまだこのような問題があるものの、現段階では、私たちの明るさの感じ方に最も近い尺度として用いられています。

●コントラストの評価

 さて、ここで言う輝度比とは別々の物体(色)の輝度の比を評価する方法です。こうした輝度の差を一般的にコントラストと言います。 コントラストとは色の濃淡の差を示し、濃淡が強いことをコントラストが高いと言い、濃淡が弱いことをコントラストが低いと言います。
 では、視覚障害者誘導用標示に関するコントラストについてはどのように言及されているのでしょうか。

 財団法人 国土技術研究センターの「道路の移動円滑化整備ガイドライン」にはおおむね下記のような記述があります。(一部抜粋)

道路の移動円滑化整備ガイドライン
 第2部 道路構造基準の運用指針
  第8章 視覚障害者誘導用ブロック
---------------------------------中略---------------------------------
 一般的に視覚障害者誘導用ブロックは黄色と認知されており、黄色が良いとする意見も多いため、黄色を基本とするが、路面の色彩が類似している場合、周囲の路面との輝度比を2.0程度確保することにより視覚障害者誘導用ブロックが容易に識別できることが必要である。輝度比については、晴天時において、1.5〜2.5の組み合わせが、弱視者、晴眼者双方にとって問題ない範囲であるという既存研究(「視覚障害者誘導用舗装の現況に関する調査例」 岩崎聖司 坂口睦男 秋山哲男 舗装29-4 1994)等から輝度比2.0程度とした。
ただし、天候・明るさ・色の組み合わせ等によっては、認識しづらい場合があるため、色彩の決定にあたっては、沿道住民・利用者の意見が反映されるよう留意して決定するものとする。
参考:輝度と輝度比
■輝度(cd/m2)
 ものの明るさを表現したものであり、単位面積当たり、単位立体角当たりの放射エネルギー(発散する光の量)を比視感度(電磁波の波長毎に異なる感度)で計測したものである。輝度は輝度計により測定することができる。(JIS Z 9111)
■輝度比
 輝度比 = 視覚障害者誘導用ブロックの輝度/舗装路面の輝度
(輝度が大きい方を除算するので、ブロックと舗装の輝度比を逆として算出する場合もある。)
財団法人 国土技術研究センター

 また、日本ロービジョン学会の用語解説の中には下記のような記述があります。

日本ロービジョン学会用語解説 その他の用語
[輝度対比《きどたいひ》(輝度コントラスト《きどコントラスト》)]
光の強度分布が異なる物体または像の明暗の相違を表す量の一つ。単に「コントラスト」という場合はこれを指す。
<補足>一般的に、コントラスト(輝度比)Cは、 C = (Imax - Imin) / (Imax + Imin)
(ただし、Imax : 光の強度の最大値, Imin : 光の強度の最小値)で表される。
日本ロービジョン学会

 ここまで見てきたなかに2つの言葉と2つの式が出てきました。輝度比と輝度対比(輝度コントラスト)です。
 輝度比(Luminance Ratio)とはコントラスト比ともいいます。

輝度比=[lmax]/[lmin]
lmax=最大輝度、又は輝度の大きい方
lmin=最小輝度、又は輝度の小さい方

で表される指標で、1以上の値をとります。値が高いほどコントラストが高く、1に近いほどコントラストが低くなります。
 また、輝度コントラスト(Luminance Contrast)とは「Michelsonの公式」を使用して色の濃淡の評価を行う方法です。

輝度コントラスト=[lmaxーlmin]/[lmax+lmin]
lmax=最大輝度、又は輝度の大きい方
lmin=最小輝度、又は輝度の小さい方

このを用いたコントラストでは0〜1の値をとります。この値が大きい程コントラストが高いことを示し、小さい程コントラストが低いことを示します。なお、上述のコントラスト値に100をかけ、コントラスト「何%」として表示されることもあります。

 コントラストの評価は他にも明度差というものがあります。これは明度とは言っていますが、輝度差のことを指します。

明度差=[lmax]ー[lmin]
lmax=最大輝度、又は輝度の大きい方
lmin=最小輝度、又は輝度の小さい方

 人間の感じる明るさは輝度の1/3条に比例しているという説や、輝度の段階は対数で表すべきだという説もあるようですが、路面に関するコントラストとなると、主に輝度比と輝度コントラストの2つの方法が用いられています。2つともコントラストの評価を数値で表すもので、どちらの方法が適切かという議論は無意味です。重要なのは、どの場面でどの値をとることが望ましいのかということです。「輝度比と輝度コントラスト」の関係を下のグラフで表してみました。2つの関係は正比例では無いことがわかります。ただ、この評価方法が完全では無いことは、いろいろな実験で、ある程度は明らかになっています。輝度比や輝度コントラストの値が高くても、色の組み合わせによっては分かり難かったり、またその逆もあります。これは人間の目の機能と、それを処理する脳の機能に関係していると考えられています。

 いずれにしろ、人間がわかりやすいと感じる明るさ(コントラスト)の評価を完全に数値で表すことは、まだ技術的に達成されていないことなので、今の段階では、この2つの方法を取ることが最善であるのだと思います。

 財団法人 国土技術研究センターの「第2回道路空間のユニバーサルデザインを考える懇談会 (平成13年度/第ニ回)議事概要」には下記のような記述があります。(一部抜粋)

第2回道路空間のユニバーサルデザインを考える懇談会
【視覚障害者誘導用ブロックについて】
・ブロックの輝度比2.0程度としているが、2.0は限界なのか?3.0以上にできないか?最近はコントラスト(最大輝度−最小輝度/最大輝度+最小輝度)という概念もあり、コントラスト50%以上≒輝度比3.0以上あると認識しやすい。(コントラスト33%≒輝度比2.0)
・ブロックの輝度比2.0は晴天時において必要な輝度であり、雨、曇り、夕方等を考慮すると更に輝度比が必要であることから、2.0という数字は示さない方が良いのでは?コントラストの事例を示すべきである。また、時間の経過により色が褪せて輝度比が保てなくなることも考慮する必要がある。
・歩道路面が薄くブロックの色が濃いものは、路面の色が膨張色となって目立たなくなってしまうのではないか?

 輝度比の値も「これでいい」ということは無く、実際にいろいろな色の組み合わせで弱視者の方々に協力して頂いて、この色の組み合わせでは、輝度比はいくつ以上、別の色の組み合わせでは輝度比はこの程度で良い、といった提示の仕方が良いのかもしれません。

●輝度の測定

 JIS規格では輝度や輝度比について規定されたものが多数ありますが、路面の輝度に関して記述されているのは「JIS Z9111:1988 道路照明基準」です。その概要はおおむね下記のように規定されています(概略)。

JIS Z 9111-1988 道路証明基準 付属書 路面輝度測定方法

部分輝度の測定方法
 ●測定範囲:路面上道路の長さ方向に3m、幅方向に0.3m。
 ●輝度計:平均輝度計の場合は、下図に例示するような台形又は相似形の台形に一致する測定視野をもつ平均輝度計を原則とし、通常輝度計の場合は直径6分の測定視野を持つことを原則とする。
 ●輝度計の位置:路面に対する測定角を約1度とする。平均輝度計の場合は、距離90mならば、高さ1.5mが原則。ただし台形の大きさに合わせて変化させる。通常輝度計の場合は、距離7.5m、高さ15cm。


 この測定方法は、主にに自動車の走行に考慮した測定方法となっていますが、歩道路面にも適用されます。視覚障害者誘導用標示の輝度比を判定するための測定もこの方法に準じて行うことになります。

 注意すべきは、ブロック上の輝度も周囲路面の輝度も、同じ照度環境で行うことです。光の当たる量によって輝度も変化するからです。

 簡易的に輝度を測定するのであれば、道路区画線のための輝度計などもあります。これは、光源と輝度計が一体化したポータブルな測定器で、そうしたものを利用することで、視覚障害者誘導用標示の設置時に輝度比が十分にあるかどうかを、比較的簡単に確かめることができます。